余桁分彌(現 藤倉珊)著
TDSF叢書発行委員会 平成元年8月20日発行
今回は、前回の続きということで、いよいよ究極トンデモ本の全容?を紹介する。
さて、あまりにも内容が豊富(というより支離滅裂)なため、どこから紹介したらいいのか迷ってしまうが、予言Bの 1.,7.に関係ふかい古代の地球連邦と天皇の話からはじめよう。
ここでは、古代では日本の天皇が全世界を治めて理想社会をつくっていたという立場をとる。これは前々回に紹介した神武天皇世界制覇説よりスケールが遙かに大きく、天皇は神武天皇以前から遙かに長く続いているという説に基づく。
この証拠は『宮下文書』『上記』『竹内文書』など神代文字で書かれた『古事記』以前の書にあるという。
これらの「神代文字で書かれた古事記以前の書」なるものは、戦争前に日本に世界的な歴史がないことを、どうにかしたいと考えた狂信的ナショナリストが捏造したものとも言われているが、現代でも、なかに出てくる「天浮舟」はUFOなりとして、天皇陛下の祖先は宇宙からきたことを示す書だという説を唱える人がいる。
これは著者のオリジナルでは全然なく、それどころか、内容からみて佐治芳彦氏による『謎の竹内文書』などの一連のシリーズ物から、そのまま引用してきたものであることは明らかである。その部分を引用する。
この完全神人合一社会の到来時期を神政成就の時といい、人類の統率者は、言うまでもなくわが日本の天皇すなわち万国天皇であるとしているのである。すなわち、太古の地球上に人類が発生した直後に、日本皇室が現れ、君臣の別も定められ、地球人類の統率者として天皇が皇祖となったのであり、現在、われわれ日本人が理解している有史以来、二千年来の歳月などは到底およばず、約三億年の遠大宏壮な歴史があるのである。
ここで三億年というのは、三万年の間違いではないかと思う人が普通であろう。ところが、これでいいのである。著者が参考にしたと思われる(参考文献には示されていない)『謎の竹内文書』を始めとする神代文字シリーズによると、神武天皇以前の天皇家を数えていくと、このくらいになるそうで、実際に石炭紀の天皇制について論じていたりするのである。
この説によると、天皇が日本一国しか治めないようになったのは、神武天皇以後のごく短い期間だけだという。このような考えは神代文字を主張する人にとっては常識?的なことで、必ずしもめずらしいものではない。もっとも、この著者は神代文字を読めた訳では全然無く、もっとも一般的な佐治芳彦氏による一連のシリーズをそのままなぞったことは、まず間違いない。
なぜ、そう言い切れるかというと、天皇の祖先をプレアデス星団からきた宇宙生命体と断言しているからである。これは佐治芳彦氏がプレインカの伝説から引っ張ってきたことで竹内文書には全く記されていないことなのである。
(佐治芳彦氏の著書もトンデモ本ではあるが、どこか醒めているというか、合理的というか(比較の上での話)狂気としては質が落ちる。メジャーな本でもあるので紹介は避けることにする。)
さて、このあたりの狂気を示すため引用する。
特に、『竹内文書』に記載された神話世界では天皇が統治していたのは、空間的には神々の誕生した銀河系以外の宇宙におよび、時間的には宇宙創世期から、歴史時代まで連なっていた。この間に登場する人物として『記紀』の伊邪那岐、伊邪那美、天照大神、須佐之男命から中国神話の盤固神、朝鮮神話の壇君、キリスト教のエホバ、アダム、イブ、ノア、モーゼ、イエス、そして釈迦、孔子、猛子、マホメットから民話の桃太郎まで来日、修行したとされているのである。
また『竹内文書』などによれば、世界の首都は日本(今の富山県)に置かれ、ここの皇祖皇大神宮に天神七代(数百億年)、上古二十五代(四百三十七代天皇)、鵜茅葺不合(ウガヤフキアエズ)朝七十三代の天文学的長期間にわたり、統治されたことになっている。
(中略)まさにこれは現代の「アインシュタイン博士」のメッセージにある「世界の盟主なるものは/最も古く、また、尊い家柄でなくてはならない/それはアジアの高峰、日本によってでなくてはならない」という言葉に如実にあらわれているのである。
ここで、天文学的期間にわたって世界の首府は今の富山県にあったと書いてあるのに、次に日本人はムー大陸から移動してきたと書かれているから驚く。(『竹内文書』によればムー大陸は日本の植民地の一つと解される。)引用すると
そして約七十五万年ほど前、この二つの大陸が分裂し、アフリカと南米に分かれ、「超能力」を持つ「三ツ目」で後ろ向きに歩くことのできる巨人族が、この地に栄えた。
この大陸にもさまざまの文明が栄えたが、その後、物質的に腐敗堕落し、神の怒りにふれて、十五万年ほど前、極移動による氷河時代に入って滅亡した。約八万年前、インド洋に浮上したレムリア大陸に移り、この文明も大いに栄えたが、二万七千年前、一晩でインド洋上に轟沈してしまった。レムリア人は全滅したが、その植民地の太平洋上の巨大大陸「ムー」に移っていた。移住民族「ムー人」が、その文明を受け継いだ。
(中略)いち早く超能力で異変を察知し、逃亡したムー人の大部分が「日本人」に、その一部が「中国、ベトナム人」となり、東に逃げたものが、南米アンデス方面に住み着き、「マヤ、インカ人」となり、大西洋上の「アトランティス人」となったのである。
この説は前述の『竹内文書』等と矛盾するような気がしてならないのだが著者は全く気にしていない。なお大陸分裂前はゴンドワナ文明が栄えていたとあるが、失われた大陸には必ず失われた文明があるとする著者の神経はスゴい。
(注、ゴンドワナ大陸の分裂が約七十五万年ほど前というのは、地学の教える数値に合わないが、このようなことはトンデモ本ではごく普通のことであるから気にしなくてもいい。)
ところが、すぐに日本人の祖先はユダヤの失われた十支族だという説が述べられるのだから、ものスゴイ!としか言いようがない。
前述のようにルーツをたどれば、「ムー大陸」に発したプレアデス星団から降臨した原始神人の子孫が、シルクロードを経て、スメル(シュメール)族となり、メソポタニアに散り、その一部が紀元前十五世紀ごろパレスティナに行き、その地で建国したのである。その後、アッシリアの侵入によって追放され、そのうちの十支族が、再びシルクロードを通って数十年間の流浪の旅を続けた後、インド、チベット、モンゴル、朝鮮などを通って日本に到着して(紀元60年頃)住みついた。そして、これが日本天皇の総祖先であると結論したい。
この説は前の二説とも矛盾しているとしか思えないが著者は平気だ。日本人とユダヤ人の共通点について長々と述べているが(注:これもトンデモ本界では、よく言われる説。ようするに他の本のまる写しである。)、最近、ビッグコミックスピリッツに同じ前提のマンガがでてしまったので省略することにする。
実は、日本人とユダヤ人が同祖であるという本は、かなり多いのである。今まで『ごでん誤伝』で取り上げた本のなかでも、『地上天国の建設』『海洋渡来日本史』などに部分的にあったし、このテーマだけのトンデモ本は今、新刊で入手可能なものだけでも十冊以上はあるだろう。
これらは、要するに「日本人は選民」であるとしたいのだが、日本人には歴史的に選民の実績が全くなく、すでに選民の実績があるユダヤ人と一体化してしまおうという発想が根底にあるのだと思う。狂信的ナショナリストでありながらも、日本人はムー大陸やプレアデス星団からきたと言うのは、さすがに恥ずかしいと思う人々が、日本ユダヤ同祖説をとるのだろう。
(日本民族=ヘブライ民族同族説の正否は、ここでは大いに問題だ)
この「選民捏造」意識こそが前記の三歴史観に共通していることなのである。(もっとも、これは日本だけの現象ではなく、アメリカでもアメリカインディアンの祖先は失われた十支族だという説に根強い人気があると聞く。)
ところが欲張りな著者は全部の説を採用してしまったのだから、スゴい。いや、それどころか、先祖はシュメール人であったという説もプレアデス星団人であったという説も採用しているのだから正にナンデモあり、究極のトンデモ本といっていい。
もちろん、著者は矛盾しているとは思っていない。ちゃんと時間を追って書いているのだ。つまり、始めにプレアデス星団から三億年前に天皇陛下が富山県に降りてきて、十万年ぐらい前にレムリアやムーにちょっと移って、二千数百年まえに(なぜか?)パレスチナに行って帰ってきたと考えているのだ。
(ところで、シュメール人が日本人の祖先であり、スメラという言葉がシュメールから来ているという説もトンデモ本界では有名な説の一つ)
さて、日本人がユダヤの十支族だというならば、ユダヤは日本人の味方で善玉かと思うと、ギッチョンチョン!
この直後に、「国際ユダヤ資本は金融・情報・食料・エネルギーを牛耳る!!」とあり、世界征服を狙う悪玉にされてしまうのだ。このあたりは、最近、国際問題にまでなった『ユダヤが解かると世界が見えてくる』『ユダヤ・プロトコール超裏読み術』などの丸写しなのである。ヨソのトンデモ本を、なんでもかまわず自分のものにしてしまう根性がすごい。
「ユダヤ・プロトコール」の実在を信じるのは、日本ユダヤ同祖説や予言B 7.と矛盾する筈だが、著者は平気だ。ユダヤの引き起こす金融恐慌で日本が奈落の底につきおとされる、ということを「今や十二分に可能性の高い現実である」と称するのだから日本の神性も、ユダヤの同胞もどこへいったのだろうか。
それでも、比較的ユダヤには好意的だ。と、言うよりプロトコールが出てきてすぐにハルマゲドンの話になって著者は忘れてしまうのだ。
著者によるとハルマゲドンの発端はソ連のイラン進駐である。つまり、これが予言B 6., 7.になるわけだ。
ところが、ここでまたもやトンデモないことが書いてある。あのカゴメの唄が米ソの戦争をうたったものだと言うのである。かごめがダビデの六芒星であることはいいとしても、カゴメの唄が次の内容だというのは承認できるものではない。
宇宙の中心の神 すなわち天の岩戸に押し込められた天照大神の御神体はいつお出ましになるのだろうか、それは、月の系統の神の統治が終わる末法の時代(すなわち現在)に、鶴(米国)と亀(ソ連)が対立抗争し、わが日本を引っくり返す時である。この暗黒の世が、二転三転して、日の主神様がお出ましになられるぞ。
これが、カゴメの唄の意味だという。いや、第7回で紹介した『北斗七星護摩』も負けそうだ。しかし鶴が米国で、亀がソ連というのは説明になっていない。すべったのはワシとクマではないのだ。
ところで、米ソは共倒れになり、代わって世界を制覇しようとするのは、なぜか中国だという。これは著者が何回も「自分や父は日中友好に功績が大」と言っていることを考えると不自然なのだが・・・今に始まったことではない。
で、折角出てきた中国だが、これはEC連合軍にアッサリ破れるとある。このEC連合軍の指令官が、この本の題名にもなっているヘンリー大王である。
ヘンリー大王とは何者か。これは著者が「二十世紀における世界最大の予言者」ともちあげ(但し、「著者は二度会見した」と自分の宣伝も忘れない)ディクソン夫人の予言にある人物であるが、始めメシアとして君臨するが、実はにせメシアであり、徹底的な独裁者になる男という。
聖書(ヨハネ黙示録)で予言されている『獣』とは、この男のことであるという。聖書では『獣』はすべての人の右手もしくは額に刻印をつけ、刻印のない者は皆、物を買うことも売ることもできないようにした、と予言されているというが、これは全世界に人類総背番号制をしき、コンピューターを用いて完全な独裁権力を握ることだと解釈する。
この人類総背番号制を担うのが、国際ユダヤ資本の下にあるIBMだという。すでに国際VANを初めているのは、その準備のためだというが、これまたトンデモ本界ではよくある話で、たとえば鬼塚五十一氏『ヨハネの終末大預言』などの本がある。
さて、ヘンリー大王は実はヘンリー・キッシンジャーではないかという説も述べているが、著者もさすがに遠慮がちだ。これは、ニクソンが大統領だったころに唱えられた相当古い説だったと思う。西暦二千年にキッシンジャーが活躍できるほど若いとは思えないからである。
そして、独裁者ヘンリー大王の死後、ようやく真のメシアがユダヤから出て世界を統治するというのがディクソン夫人の予言だが、著者はメシアは日本に現れ、この頃大浮上しつつある「ヤマト(ムー)大陸」に君臨し、全世界人類を統治するという。
これこそが、この本の題名に出ているヤマトメシアであるのだ。
実際、著者のオリジナルらしい予言はこのヤマト救世主に関する事のみである。ヤマトメシアは、このころ大量に(八千二百人)出現するメシアの総メシアなのである。(予言A 3.)
おっと、ヤマト(ムー)大陸の浮上を忘れていた。大陸がほいほいと浮上してくるところが、この本のすごいところだ。著者に依ると
超古代に南太平洋の膨大な海域にわたって存在したとされる伝説のムー(ヤマト)大陸が、一九九八〜二千年ごろの「ハルマゲドン」やその他、宇宙的超常異変による「極移動」や「彗星の接近」などに影響されて、二十一世紀の初頭二〇〇二年前後に、ついに「浮上・大隆起」し、二〇二〇年ごろまでに完了する。
という。「極移動」の原因は例の氷帽重量オーバー説である。そしてムー大陸だけでなく、アトランティスもレムリアも浮上する。逆に北米を始め、現世界の多くが沈没する。ついでに彗星、小惑星、巨大惑星マルディックまでが大接近して破壊をもたらすといっている。
(巨大惑星マルディックは三千六百年ごとに地球に接近するという。著者には彗星と小惑星と巨大惑星の区別がついていないようだ。)
二〇二〇年の世界地図がでているが、『こてん古典』第13回に紹介されている『不死人』をも超える「地球全体ドロドログヂャグヂャビチャビチャ」地図だ。しかし日本は逆に少し隆起したようで、太平洋上のヤマト(ムー)大陸とつながっている。さすがに神国なのだ。
もっとも、別のところにある二〇〇〇年ごろの日本地図をみると関東平野全域を始めとして低地はほとんど水没しているのはどうしたわけか。
ところが、この問題についてはちゃんと説明がつく。これは、この後、二十年で隆起すると言うのである。どうして、こういうことになったかというと、この水没地図の方は著者が前に出した『メシアは日本に現われる』という本に一度出したものらしい。
つまり(僕の推測だが)前の本と辻褄を合わせるため二十年ずらしたと思える。(この著者が辻褄を気にすることもあったのだ。やはり日本のことは気になるらしい。)
さて、さらにトンデモないのは「浮上したヤマト大陸で宇宙人との交流が行われる」ということだ。著者は宇宙人の出現をあまり大した事件と考えてはいないらしくて宇宙人との遭遇がどんな形でおこるか書いていない。宇宙人がいるのがあたりまえで、古代からずっと遭遇していたのだから、さして騒ぐことではないという論理らしい。このあたりのセンスはトンデモ本の王道を行っている。
ともあれ、ヤマト大陸に現れる宇宙人の描写を見てみよう。
長い耳を持つ者、一メートルほどの小柄な者、青い肌の者、黄金色の肌をもつ者、その他、地球上には見られない不思議な容貌、体躯のさまざまな宇宙人が、ヤマト大陸東端部にある宇宙船発着基地近くの首都近辺に、多数集結する。そして、地球再建、新千年王国建設に協力しつつあるところを、筆者は「霊夢」にはっきりと見ている。
ヤマト大陸は宇宙への出入口、まさしく「宇宙大陸ヤマト」ともいうべき役割を果たしているのだ。以前「宇宙戦艦ヤマト」というアニメが日米両国に大流行したことがあったが、今度は「宇宙大陸ヤマト」なる新語およびアニメが大流行するかもしれない。
ええい!この著者は、どういう予言をしているのか。「宇宙大陸ヤマト」は数ある予言の中でも、バカバカしさではナンバーワンといってよいだろう。究極トンデモ本だけのことはある。
さて、二〇二〇年にヤマト救世主が出現し、ついに地球連邦が建国される。つまり、予言Aの 1., 2.、Bの 8.が実現する社会である。二〇三七年には、ヤマト大陸首都「イヤサカ」で地球連邦の宇宙連合加盟式典が行われ、多数の宇宙人(火星人・木星人など)を招待するという。
さてメデタシメデタシで終わる大予言だが、このヤマト救世主、すなわち「万国天皇」は恐れ多いことに現天皇家ではない。最後に次のように書かれている。
この大メシアたらん「万国天皇」(ヤマト救世主)は、必ずしも直系の皇室でなくてもよく、傍系または在野から出現する可能性もあるのだ。要は神事であり、すべては神が自ら決定されることである。
この一言は少しコワい意味を持つと僕は思う。邪推かも知れないが、在野から出現する「万国天皇」とは著者自身のことを言っているふうにとれるのである。
たとえば、「親子二代にわたる宿命の構図」などというトンデモない自叙伝が最初に有るのだが、そのなかには−−−亡父の霊は、自分のなし得なかった「地球連邦建国の夢」を、筆者に託して実現させるつもりであることが最近になってわかってきたのである。−−−などと書かれている。それどころか太平洋戦争中、筆者にリンチを加えた上官が次々に奇怪な死をとげたとか、筆者の日中友好を妨害しようとした習志野市の市会議員二人が悲惨な運命を辿ったとか述べて−これからも、誹謗・中傷・妨害には決して惑わされず、ますますの発展に寄与したいと思っている。−と宣言している。これは「私は神に選ばれた人間だ」と宣言しているに等しい。
この本を究極のトンデモ本にしているのは、数々の狂気を集大成し、支離滅裂な論旨を羅列し、それらが渾然一体となって奇怪な不調和を示しているだけではない。
その底に−− 我は神なり −−という凄まじくドロドロした思いが秘められていて、見え隠れするところにある。
なんであれトンデモ本の本質は、慢心にあるのだが、本書はそれが最も狂気を帯びて強烈に示されている。まさに究極トンデモ本の名にふさわしいと言えよう。