余桁分彌(現 藤倉珊)著
TDSF叢書発行委員会 平成元年8月20日発行
さて、この『ごでん誤伝』もついに14回まできた。架空ナンバーを除けば『と』のなかでも一番続いている連載だ。この快挙を記念して、今回は究極のトンデモ本とも言うべき本を紹介しよう。
その本の名は『ヘンリー大王とヤマト救世主』という。このヤマト救世主はヤマトメシアと読んでほしい。裏表紙には『The King Henry & The Yamato Messiah 』と英文題名が書かれている。
この本を究極と呼ぶのは、ぼくがこれまで紹介してきた数多くのトンデモ本の要素をほとんど全て、その内に含んでいるからだ。
実際、トンデモない予言書や古代史、さらには超能力のたぐいはずいぶんと見てきたつもりだが、この本一冊でそのほとんどを代表できると言ってよいぐらいなのだ。
『ヘンリー大王とヤマト救世主−二〇二〇年への超予言−』(広瀬謙次郎著、扶桑社刊)は一九八七年一二月二一日に初版が出、翌一九八八年一月二二日に再版が出ている。よく売れている本にはちがいない。しかし、この本がなぜ売れるのか、どんな人が(僕のようなトンデモ本コレクターは除いて)買っていくのか、いまだに不思議でならない。
実際、この本のヒドさは本屋で手にとって少しみただけでも充分に分かるのである。
まず、この著者の予言の方法が呆れ果てたものである。「霊夢」を見るという実に楽な方法でなのである。修行もいらない、資本もいらない、あやしげな古文書を解読したと称した後に原典を持った学者から誤りを指摘される恐れもない。これで説得力さえあれば、いうことはないのだが・・・
その方法を説明した部分を引用してみよう。
これらの「霊夢」は、これまで述べたように、間違いなく「宇宙創造の神」が筆者に見せているのである。なぜなら、「パナビジョン」のように壮大な光景が眼前に展開し始めると、神が半ば金属的な御声で、その事象の「解説」を厳かに為されるからである。
「解説の御声」が聞こえはじめると、筆者はひれ伏してこの声を聞いている。これが「神の警告」であるからには、「霊夢解読法」あるいは「霊夢と雑夢」を間違えないかぎり、百パーセント的中するはずなのである。
この主張に説得力があるとは、とても思えない。「パナビジョン」のように壮大な光景とは、どこか貧弱な描写だし、画面の「解説」までしてくれると聞けばサービスのいい神様もいたものだと呆れるほかはない。だいたい「解説」がありながら−間違えないかぎり的中する−とは情け無いことこのうえない。
ところが、よほど予言に自信が無いとみえて、筆者はさらに逃げを打つのである。
これらの「霊夢」は、解読を間違えないように、昔はすぐれた「審判者」に意見を聞いたこともあったが、現在は自らの体験研究も豊富になったので、自分自身で判定し結論を出しているが、九十パーセント的中している。
また、これらの「霊夢」も、すぐれた霊能者が一丸になり、心を一にして祈念すれば、その減少に変化を起こし、小難になるだろう。さらに強く念じれば、受難は方向を転じたり、雲霧散消することもありうる。
これで、この「予言」の的中率に期待する方がおかしい。もし、災厄がこなければ、すぐれた霊能者(自分のことだ)が、雲霧散消させたのだと言えばいいのである。それにしても、不思議なのは「審判者」である。これはいったい何者なのだろう。(以後、全く説明はない。)
このように、方法に若干、問題があるものの、予言はしているので、とりあえず筆者がプロローグで明らかにしている十三の予言をそのまま記しておこう。
予言(A)
1.今世紀末前後に、宗教・科学・哲学の三分野は一つの体系になる。
2.同時期頃に、世界の三大宗教(仏教・回教・キリスト教)は解体・再編成され、日本 に生まれる「宇宙大宗教」が全世界を支配するようになる。この時、「神社」と「役所」と「スーパーマーケット」を合体したようなものが日本に現れ、世界中に支部をつくり、神人がこれを治める。
3.これと相前後して起こる大異変を回避、ないしは縮小させるために、全世界にわたって数千のメシアが現れるが、彼らを統べる総メシアは日本から出現する。
4.「ハルマゲドン」に際し、神の「宇宙船」による「空中携挙」が大規模に行われる。
5.日本の一部冠水と「ヤマト(ムー)大陸隆起」、「アトランティス、レムリア」の浮上とアメリカの一部沈没などの一大地殻変動は、2020年より若干早まるだろう。
予言(B)
1.「皇祖皇大神宮」に保管されていた神代上代からの御神宝が皇室に出現し、天津日嗣天皇(アマツヒツギスメラノミコト) の世界統合、神政復活に至る道が開かれる。神政復古の時、国棟梁天職天津日嗣天皇(トコヨクニ(トコヨクニオムヤアメマツリアマツヒツギスメラノミコト)の大御代が出現し、この時、「龍宮乙姫」が道を開く役割を果たす。
2.しかし、この期に至るまで、悪神の蠢動によって、政治・経済・社会的騒乱状態が日本や諸外国に発生する。中国、アメリカ、イギリス、イタリアなどの現体制は変革し、最後にソ連政体の変革があり、インドの分裂・動揺する。
3天地に大変動が起こる。それ以前に日本に現れる事象としては「三原山(大島)の爆発、M6クラスの地震」などが挙げられ、富士火山帯に属する火山噴火の可能性もあるが、富士山の爆発は当分の間ない。また、彗星もしくはその破片が北米近辺に落下、一部に洪水を起こす。
4.幽界の立て直しが実施されて、その影響が現界に出現し、現界の一部の人間に異変をきたす。
5.ソ連軍の日本上陸進攻の恐れがある。日本は戒厳令状態におかれ、憲法も一時効力を失い、重大自体が発生してはじめて国民は神霊的に目覚め、これを撃退するに至るだろう。
6.第三次世界大戦は海戦によって火蓋を切り、代理戦争が、イラン、イラク、シリア、リビア、レバノンなど中東方面のほか、東北・東南アジア、中米、アフリカなど各地に飛び火し、一九八八〜九九年にわたって全世界に拡大する。一九九九年八月、最終核戦争が発生するが、短期間に終結する。
7.米・ソが核戦争で共倒れになった後、中国が勢力を拡大し、今後は米・ソ同盟して中国を討ち、この「ハルマゲドン」が終結した後、人類は地球連邦の建国に向かい、世界人類の「ユートピア」が史上初めて実現することになるが、その場合、日本と最も協力・提携するのがユダヤ人勢力である。
8.世界が七大区域に分かれ、各地域に自治をしき、万国が「万国棟梁天職天津日嗣天皇」の治下に入り、神人の進発、万国の立て直しが完成し、以上、三次元界の立て直しが完成すれば、次いで四次元界の立て直しも行なわれ、神世復古(彌勒の世)となる。
どれ一つをとってもトンデモないものばかりである。幽界の立て直し、とか四次元界の立て直し、とか常識を超えた発想のすごさ、大陸がホイホイと浮上したり、メシアが何千人もあらわれたりするスケールの大きさを見れば、この本を究極のトンデモ本といった意味の一部がわかってもらえただろうか。
実は、これらの一つ一つは独創性のあるものではない。この著者は「霊夢」という手軽な方法をとっただけでなく、内容についても同類の本多数からズウズウしく借用しているのである。ただ、その範囲がこれまで紹介してきたトンデモ本のほとんどを含むほど多数なため、上記の13の予言のようなタイヘンなことになったのである。
まあ、全面的に他人の本を盗作しても、真実なのだから「霊夢」と一致して当然と言い切ることができるのだから、この世界は楽なものだ。(現にそれですましている。)
さて、内容を紹介していこうと思ったが、元ネタ本の探索までしてしまい、ちょっと資料が膨大になりすぎたため締切に間に合わなくなってしまった。今回はイントロダクションということで、次回は、この究極トンデモ本を、なるべく元ネタ本とあわせて紹介していきたい。
では次回のごでん誤伝をよろしく。