藤倉 珊 著
TDSF叢書発行委員会 1992年8月16日発行
さて、まだまだ紹介したい本は多いのだが、この『続ごでん誤伝』も、そろそろ終わりに近づいた。(終わりにしないとSF大会に間に合わない!)
そんなわけで今回は、手持ちのトンデモ本、あれこれ片っ端から紹介する。名付けて『ごでん誤伝掘り出し市』。なにが出てくるか、作者もしらない。
『神の正体』(浅利幸彦著 時の経済社 一九八五年)
とんでもない題だが、内容をズバリ表している。この本では、本当に神の正体を暴いてしまうのだ。この本は『宇宙人恐怖の思考回路』と同じようなところがある。非常に論理的に展開していくが、それ故にどんどん話がおかしくなっていくのだ。
著者は、近づいてくる破滅(もちろん近づいてくるのだ!)から人類が救われる方法を次のように分類する。
1)精神的方法
1愛による方法
2宗教による方法
2)科学的方法
3)超科学的方法(オカルト的方法)
1神が助けにきてくれる
2UFOが助けにきてくれる
3すでに提示されている大予言を解読する
4救世主が現れて救ってくれる
なかなか見事な分析ではある。浅利氏は、検討の結果、愛では世界は救えないなど、なかなか鋭い考察をしている。しかし結果として2)と3)の 3を組み合わせたような結論になってしまうのが、なんとも言えない。
どうして大予言が信用できるのか。浅利氏は、大予言とは実は未来人が過去の地球に残したものであり、だから当たるのだと解釈するからである。ここで浅利氏は神の正体を未来人と決めつける。つまり科学が進歩して人類が、生命、空間、時間を自由に制御できるようになり、過去の世界にあらわれたのが神という仮説である。
この説は、少なくとも外見上は非常に科学的だし、否定することは極めて困難なのではあるが、証拠はまったくなく、また正しいとしても現代人に打つ手がない(あるいは打つ必要がない)ので、実質的に無意味な仮説だと僕は思う。しかし浅利氏にとっては無意味ではないし打つ手がないわけでもない。それはノストラダムスの予言を解読することである。なぜならノストラダムスこそ未来人のメッセンジャーだからである。
浅利氏の説は、飛躍と独断が多いので、どうもよくわからんが、神(未来人)は、好ましからざる未来世界に行ってしまい、歴史を変更したいが為に過去にメッセージを送り、二千年がその変更点になる、ということらしい。しかし未来人が、なぜあんな解釈が困難な形でしかメッセージを残さなかったのか、よくわからない。さらにタイムパラドックスについての著者の見解は示されていない。たぶん認識がないのであろう。
なんかSFの設定としては、よくありそうな話なのだが、著者は大真面目で、その分、迫力がある。残念なことには著者はあまり多くのSFを読んだことがないようだ。
ところで、この本の終わりの方は、単にノストラダムスの予言の解釈に終始するので、あまりおもしろくない。『神の正体II』という続編もあるが、もう普通のノストラダムス解釈本になってしまっている。残念なことである。
『驚異のインテリア・パワー』(小林祥晃 廣済堂 一九九一年)
副題に、こんな家具・インテリアがあなたのツキを奪う、とある。この本によると、部屋の配置・家具の配置で運勢が変わるという。
まあ部屋の配置や方角に吉凶の別があることは、昔から言われていることだが、本書はそうした伝統を踏襲した本ではない。非常に現代的、かつ具体的である。
おどろいたのが目的別のインテリアと称するもの。いわく、お金に不自由しないインテリア、ストレスに強くなるインテリア、ダイエットに成功、さらに健康になるインテリア、会議でライバルに勝つインテリア、競馬につよくなるインテリアなどなど、二十種類。
例をあげると、競馬に勝つインテリアとは、寝室の北西・南・南西に窓が無いようにするか、グリーン系のカーテンをして競馬のパワーのドロップを防ぐようにし、サイドテーブルは、籐で天板はガラス、黒のコードレスホンを置く・・・家具は黒か白で統一し、白黒をはっきりつけるようにする、などという。賭の白黒と、家具の色調とは関係あるのかねえ。それにしても競馬に勝つ方法については、あやしげなものが、いろいろあるが、インテリアで勝つようになるというのは、さすがにこれ以外にはないだろう。
『ユダヤの禁書 ネクロノミコン秘呪法』(マーク・矢崎 二見書房一九八八年)
なにしろネクロノミコンである。その内容を公開してしまおうという本である。で、その内容は、というと第一にあるのが「恋をかなえる秘呪法5」。ネクロノミコンで恋をかなえるという発想に脱帽する。
具体的には、三日月の夜にエンビルルグガルの魔法円を描き、その中央に時節の植物の種を植え、それを踏みながら「アグギャ」と唱えると恋がかなうという。
この本は、ネクロノミコンとは名ばかりで、単なる創作おまじないの本だったのだ。なにしろ「金運をまねく秘呪法」「目上の人に可愛がられる秘呪法」「家庭円満になる秘呪法」「仕事をこなす秘呪法」などラブクラフトの読者にとっては脳がウニになる秘呪法が満載である。その内容は、すべてがほとんど同じといってよい。魔法円を描き、アピリクババダズズカンパだのアラララバアアルだのの呪文を唱えると、サーサーとかムンムとかいう精霊が願いを叶えてくれる、というパターンばかりである。クトゥルフ神話をそれほど読んだわけではないが、ほとんど全てが著者の出まかせのようだ。おまじない本としても、工夫がない本で、呆れ返るほかはない。
それにしても、この本のどこがユダヤの禁書で、ノストラダムスの予言の救済なのか、ちっともわからない。前書きに著者は、次のように書いている。
本書を執筆するにあたり、ラブクラフトの死と『ネクロノミコン』を取り巻く背景を調べるうちに、この書に呪いの陰謀をかけて隠蔽し、自らの民族だけが生き伸びようとする一派がいることを知り、生命の危険を感じている。
私がその魔の手を避けて、ラブクラフトの悲劇を免れることができたなら、本書を手にしたみなさんと、裁きののちにエデンの園で再び会うことができるよう、その日まで。
この手の「身の危険」というのはユダヤ陰謀本の典型的なパターンなのだが、こんなおまじない本の著者を狙うものがいるのだろうか。これだけ前書きと内容が一致しない本もめずらしい。
『常温核融合』(岡本眞實 日刊工業新聞社 一九八九)
一九八九年三月、フライシュマンとポンズ博士によって、いわゆる常温核融合が発表され、世界的な大騒ぎになったことは記憶に新しい。本書は、雑誌形態を除けば、そのテーマで出た最も早い解説書である。早いだけあって内容は急いで書いたことがありありと出ており、また情報も断片的であまりお勧めできる本ではない。
しかし、この本で僕が注目するのは内容ではなく、前書きである。前書きは、つぎのように始まる。
一九七三年十月エジプト軍が、スエズ運河を渡河し、シリア軍がゴラン高原にソビエト製戦車を侵攻させました。
このあと実に6ページ、中東戦争の話ばかり続くのである。いったい核融合と何の関係があるのだろうか。この長い前書きの終わりに
さて、このような話しをしてまいりましたのは、この度の「常温核融合」の持つ性格が、何かサダト大統領のこの革命にアナログなところを感じたからです。
とあって、呆れ返る。いったい著者は中東情勢のことを書きたかったのか、常温核融合のことを書きたかったのか、わからない。著者は第四次中東戦争当時にエルサレムの大学にいたそうで、著者にとっては重大な意味があるのだろう。この前書きの奇妙さ加減は優にトンデモ本と称してよいだろう。
なお常温核融合の本は、その後、数多く出ているが、僕が読んだ限りではE・D・ピート『常温核融合−科学論争を起こす男たち』が最もよかった。
『首都圏大震災と国家の陰謀』(原海紀夫 鷹書房 一九八一年)
この題名から、内容が想像できる人もいることだろうが、政府はわざと大地震で東京を壊滅させ、人口問題などを解決しよういう陰謀を進めていると論じる本である。たしかに東京の地震対策はまったく進んでいない。いくらなんでも政府が、ここまで無能であるとは信じられず、背後に巨大で非人道的な陰謀があると思ったとしても無理はないかもしれない。
しかし、この著者は単に政府の陰謀を暴くだけではなく、地震による世直しも主張している。読むと、陰謀を計画しているのは政府ではなく、著者の方ではないかとまで考えてしまうほどである。まずは、あとがきから引用しよう。
地震はけっして悪者ではない。ちいさな地震では社会はなにも変わらないが、大地震がくれば、すべては一挙に御破算になる。新しい世界が開ける。
(中略)
地震は平等に人を痛めつける、すべての人を這いつくばらせ、都市大火は、十坪の家も千坪の家も平等に焼き払う。人間の目からみれば、あばら屋と大邸宅の違いも、大火 からみれば、目くそ鼻くその違いでしかない。人間が作り上げた区別や差別は、一挙に取り払ってくれる。
戦後三十数年間の間に形成された、がんじがらめの様々な束縛も一挙に解き放たれる。
今や、世の中に大変動、大変革をもたらすものは何もない。あるとすれば、大地震だけである。
今、希望を持てないでいる人間ほど、大地震を待て。明日かもしれない。借金は御破算になり、納期や締切りはパーになり、殺してやりたいほど憎い人間も死ぬかもしれない。何も、あきらめることはない。
地震だけが、今と未来の思考の連続を断ち切ってくれる。
この本は困ったことに、どうにも反論しにくい。政府は本当に陰謀を企てているかも知れないのだから。しかし、もっと困るのは著者の提案する対策である。都電や蒸気機関車を復活させよとか、橋に穴が開くようにしておき非常時に公衆便所になるようにせよとか、奇妙な理屈が多いが、なかでも著者がとっている対策として犬を非常食料のために飼っているというのには参ってしまう。散歩のとき、犬のために走らせるか、食料として太らせるためにノロノロ歩かせるかという問題で著者は心理的葛藤に苦しむそうである。
著者が真面目になればなるほどおかしくなる本である。
『左回り健康法則』(亀田修 山根悟 KKベストセラーズ 一九九二年)
本書は本来は健康法の本である。だが、方法がすごい。なんでも左回りにすれば健康になるというのだ。例としてあげるのが、まずスポーツ界である。陸上のトラックが必ず左回りになっていることから始まって、スケート、競輪、バイク、F1、競馬まですべて左回りであり、これは自然の法則だと主張する。
さらに台風も左回りである(南半球は文明が発生していないため無視する!と著者はいう)。そして地球も左回りである。金星と僅かな衛星を例外として星々も皆左まわりである。そして銀河も左回り(確かに左回りだが、それはかみのけ座の方向を銀河の北と定義したからで自然法則ではない)、渦巻き星雲も左回り、宇宙も左回りとして、次のように言ってのける。
いずれにしても人間の寿命は180億歳の宇宙、46億歳の地球に比べれば、それこそちっぽけな点のようなものである。宇宙が長生きなのは左回りだから?健康法の本にもいろいろあるが、宇宙の健康法を論じた本は珍しい。
その宇宙と地球が、これから先、何年生き続けるのか想像もできない。だが、いずれにしろ、ここまで天文学的な期間、極めて健康的な生命力を誇ってきたのである。
それは「左回りの法則」による−。
『ついに幽霊を捕獲した』(堤裕司 廣済堂 一九九二)
なんと言っても著者の姿がすごい。まるきりゴーストバスターズ。いやはや、こんな人が本当にいるとは。
著者はダウジング(占い棒、『奇妙な論理II』のなかでけなされている)の第一人者だそうで日本ダウザー協会会長でもあるという。ダウジングの応用で幽霊捕獲を研究し、昨年にゴーストハンターズを結成、実際に幽霊捕獲の依頼を受けて活躍しているという。もちろん著者は幽霊の実在を信じているのだが、幽霊とは残留思念であると一見、科学的?なことを言っている。幽霊捕獲といっても実際には残留思念のエネルギーを消滅させるので、除霊といったほうが正しかろう。
しかし、なぜこんな仰々しい服装が必要なのだろうか。著者によると、幽霊になやむ人を救うためには、このように、いかにも退治しているという印象を与えるのが効果的だそうである。心理的な要素も大きいからだそうだが、個人的意見を言わせてもらえば全てが心理的な原因という可能性も大きいのではなかろうか。まあ依頼者がそれなりに納得していれば別にかまわないけれども。
本書で興味深いのは、なんと言っても数々のゴーストハンティング用秘密兵器だが、どうみても映画ゴーストバスターズの影響を受けているのは明らかで、それも意図的なものという感じがする。このほうが依頼者を納得させやすいというのが理由かもしれないが、もはや現実とパロディの境界がなくなってきたと言ったほうがよいのかもしれない。