藤倉 珊 著
TDSF叢書発行委員会 平成2年8月18日初版発行
「二版にあたっての注」および「再版に関してのあとがき・補注・その他」
この論は、初めは冗談として書いてきたが、あらためてレンズマンシリーズを全て読み直してみると案外あたっているのではないかと思えてきた。
レンズマンの悪役ボスコーンの描写をみると、悪が悪である理由は、侵略的であることでも、冷血であるでも、無性であることでもない。その理由は、ピラミッド型階級組織そのものであり、レンズマンとは独立レンズマン個人が、階級組織を破っていく物語なのだ。主人公が所詮は軍人といっても、物語にパトロール隊の階級に関する描写がほとんどないことに注目すべきだろう。スミスは、実は石川英輔に匹敵する企業SF作家だったのだ。『大宇宙の探究者』を人は愚作と笑うだろうが、あれこそ、スミスの本質がもっとも出ている作品だったのである。
こう考えると次のことも、偶然とは思えない。
ボスコーン、すなわちボスを頂点とする円錐型の組織構造。
まず、おことわりしておきますが、初版にはあとがきがありません。そんなサービス精神に欠けた同人誌でありながら、初版二百部は完売し、SF関係の同人誌としては例が少ない再版ができたことを、二百人の読者に感謝いたします。
さて友人によると、去年度はマッドサイエンティストの当たり年だそうで、フォワード博士の「SFはどこまで実現するか」の他にも、ホーキング博士の記録的著書とか(あの本の宇宙論的側面にとらわれ神の問題を扱っていることに気がつかない人が多い)、伝説的超SF「スターメイカー」とかが出版されていたのですが、なによりもマッドサイエンティストに興味ある人間にとって必読書はフリーマン・ダイソンの「多様化世界」(みすず書房,一九九〇年)でしょう。
不覚にも、私はこの本の存在に気がつかず、本書を執筆したのちに読んだのだが、もし執筆前に読んでいたら、けして本書は書かれなかったでしょう。第二章で、フリーマン・ダイソンの業績について言及した部分がありますが、それは雑誌等で断片的に知ったことで「多様化世界」を読んでいたわけではないのです。
「多様化世界」(原題はINFINITE IN ALL DIRECTIONS)は、まことに途方もない本で、これに比べられる本は、おそらくバナールの「宇宙・肉体・悪魔」を以外には、まずないと思われます。
SFファンの間でも「多様化世界」が不思議なほど話題にならず、また知られてもいないのは読んだファンが衝撃のあまり失語症に罹ってしまったためではないかと真面目に考えているほどです。下手な内容紹介などできるわけがありませんので、ここでは本の紹介だけしておきます。
またもバナールの「宇宙・肉体・悪魔」は現在絶版ですが、やはりマッドサイエンティストに興味がある人には必読書であり、とくに本書と見比べてほしいと思っています。みくらべて呆れ果てても、それはあなたの勝手です。
さて初版以後に読んだもので、これはマッドサイエンティストだと感じたものは、一つはダイソン博士、もう一つはあさりよしとおの「地球防衛少女イコちゃん」だったりする。いや、マンガそのものではなく、巻末のQ&Aなのだが。
一九九一年七月