「神風隊長」復刻日誌 好評連載第二回

神風隊長復刻委員会委員長 南 要 著


 まずは、

      ごめんなさい!

 夏にあれだけふいておきながら、しっかり『神風隊長 天界の美姫』の冬コミでの発売は間に合いませんでした。
 諸般の事情が重なったとはいえ、『神風隊長 天界の美姫』に期待して下さっている読者の方々には、何ともお詫びのしようがありません。そこで今回は、TDSF機関誌の別冊という形で、復刻が完成した処まででお話しとしてきりが良い処までを発表し、お茶を濁させていただく事とあいなりました。
 本来ならば、完成した形になるまで披露は避けるべきでありましょう。しかし、これ以上何の成果も発表せずにいては、読者の皆様に申し開きが立たないという、復刻委員会とTDSF編集部内部の意見が多く、それと、最近、巷において、「『神風隊長』は戦中に発表された物では無く、実は復刻者が思いつきででっち上げた小説で、調子に乗って二冊書いたまではよかったが、三冊目でネタに詰まり、その為に発売されないのだ。」などというまことしやかな噂も流れている様でありまして、やはり、何らかの報告を読者の皆様にせねばならないと、この様な形をとらして頂きました。
 以下、誠に言い訳がましいのですが、夏から今までの間の復刻作業の経過などを御報告致したいと思います。

 さて、今年の夏にTDSFの機関誌を買って頂いた方は御存じでしょうが、今回我々が復刻作業をしている『神風隊長 天界の美姫』という本は、大変に数奇な運命を経て、我々の手に入った物であります。
 それは、今をさる事50年前、アメリカ海兵隊員であったドナルド・カーター氏が、硫黄島で戦死した日本兵の遺品として持ち帰った物でありました。カーター氏は、日本の遺族へとその本を返還したかったのですがその夢は果たせず、孫のジョナソン・カーター君がその遺志を継ぎ、世界SF大会で日本のSFファンにこの本を託したのであります。(詳細は、TDSF1994年度機関誌「強いぞ僕らの超合金ゼッと」を参照の事。)
 残念ながら、その本は随分痛みが酷く、ページ抜けや判読不能の箇所もあり、更に後半部分が全て抜け落ちているという有り様でした。その為、何とか復刻作業は始めたものの皆様に発表出来るに足る物であるかは大いに疑問でありました。今年の夏に機関誌に一部を発表したものは、その中でも比較的まともな状態であるこの本の冒頭部なのです。
 ところが、夏の機関誌の原稿が出来上がり、印刷所に入稿するだけの状態になった七月下旬のある日。この本を我々に託したジョナソン・カーター君から一通のエアメイルが届いたのです。ジョナソン君とは『天界の美姫』の復刻を開始してから、何度か手紙をやりとりしており、夏に一部を発表する事も連絡済みだったので、最初にその手紙を受けとった時にはそれに関する事と、いつもの近況の報告ぐらいだろうと思っていたのですが、いざその手紙を読んでみると、そこには実に驚くべき事が書かれていたのでした。

 太平洋戦争終結後、日本を占領下に置いたGHQは、当時日本で出回っていた各種の出版物を収集し、日本の占領政策の参考すると同時に、検閲等を行っていました。
 この新聞、雑誌はおろか日の目を見なかった発禁図書、航空写真、地図までをも含む膨大な量の文書類は後に破棄される筈の処を、メリーランド州立大学のプランゲ博士が引き取り、同大学に寄贈され、いままで保存されてきたのです。しかし、長い年月を経るにつれ損傷が激しくなり、同大学ではここ三年をめどに、この文書類をマイクロフイルム化する事にし、雑誌、単行本等の類いは、この程、ほぼ完成したのだそうです。(ちなみにむこれには日本の国立国会図書館も協力しているそうです。)
 さて、ジョナソン.カーター君は、たまたま同大学の学生でありまして、完成したマイクロフイルムのリストが発表されたのを見たのだそうです。勿論、彼の頭の中にはこのリストの中に、あの祖父の『神風隊長』に関係のある文書が何かあるかも知れないという考えがあった様です。そして、なんと彼はそこに『「KAMIKAZETAICHO.TENKAINO BIKI」1945(Sience Fiction.)』という書名を発見したのです!
 彼の手紙を読むや否や、我々はその本の閲覧、もしくは複写が可能かどうか、彼に問い合わせました。すると三週間程して彼からの返事が返ってきました。残念ながら、まだ資料は整理の段階で、閲覧や複写等、利用出来るのにはまだ時間がかかるとので、もし可能になったならすぐに知らせるとの事でした。しかし、元の本は状態も良く、どうやら完全な形で残っているらしいとの報に、我々はほっと胸をなで下ろしました。又、資料の整理をしているスタンレイ博士という方(この方は日本文化の研究者らしい)も、協力を約束してくれたという事も書いてありました。
 我々は早速、「気長に待つから、兎に角、頼む」との手紙を出し、同時にスタンレイ博士にも手土産として、福助やら招き猫やらやらこけしやらを一箱送りました。
 それから時はたって、すでに十一月半ばのある日の事。我々の手もとに一つの航空小包が届きました。中を開けてびっくり!中には長文の手紙とともに、『天界の美姫』全文のコピー、しかも、表紙や口絵はカラーコピーされたものが入っていたではありませんか!巻末の広告や、奥付けもしっかりとコピーされていて、これをその儘、装丁してやれば立派に一冊の本が出来るのではないか?と思う程です。もう感謝感激雨霰!
 一緒についていた手紙は、スタンレイ博士が日本語で、しかも墨痕凛々とした見事な毛筆で書かれた物で、その文章は、我々なぞ穴があったら入りたい程に見事なものでした。その手紙の内容は、『神風隊長』がアメリカ小説の翻案物として非常に興味深いので、是非、君達の手で復刻した二冊と「秘密画報」を送って欲しい。又、『神風隊長』を英訳し、学生のテキストとしたいが良いだろうか?という事で、追伸として、ついでに「素晴らしい日本の造形物」をもっと送って欲しいとも書いてありました。
 我々は大喜びで、『神風隊長』の既刊本と共に、今度はリカちゃん人形やら、七福神、おまけに呪いの藁人形まで、山の様にかき集めてアメリカへと送りました。

 兎に角、『天界の美姫』の完全版を手に取って驚いたのはその長さです。実は、ここに紹介した部分までで、なんと半分強なのです。これは、今までの二冊の分量と比べれば、かなりの長さとなります。それと挿し絵も今までより随分と増えている様です。しかも、絵のレベルは今までで最高の出来ではないかと思われます。いつも、挿し絵の修復をお願いしている長谷川正治先生も、この挿し絵の出来には驚いていらっしゃいました。
「これはやるしかない!」
 我々、復刻委員会の必死の作業が始まりました。しかし、冬コミに出版するには余りに時間がありません。残念ながら、我々復刻委員会のメンバーは、その殆どが正業を持っている社会人の為、特に年末は時間が思う様にはとれないのです。しかも、今までやっていた処で、脱字や落丁を推測で書いていた処も直さねばなりません。

 と、いう訳で、最初に書いた様な事とあいなりました。これが限界なのです。しかし、ながら、我々の作業は未だに続いております。この儘、何事もなければきっと夏には完全版の『神風隊長・天界の美姫』を皆様にお届け出来る事と思います。
 お話しはこの後、冥王星の衛星から太陽系外宇宙へ、そして、シャムボウル本星へと進んでいきます。恐らく話しのスケールとしては、シリーズでも最大のものだと思います。どうか、御期待下さい!

 そして、最後に

本当にごめんなさい。もうしません!

でも、二度あることは三度ある?


『神風隊長 天界の美姫』 暫定ベータ版(1994年12月30日発行)より


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